・債券投資の基準

グレアム著「証券分析」の第2部第8章「債券投資の基準」についての雑考。

Section− W.第四の原則−厳しい安全基準を適用する
 グレアムは冒頭で「優良債券の選択は、全体として消去のプロセスである」と述べ、「安全性に欠ける債券を除外するため明確な原則と基準を適用すべき」と述べています。

 「選ぶのではなく、消去である」とは、これまで見てきたように、明白な安全性の基準から最低限の債券を選び、そのなかからインカムゲインを得るのに耐えうるリスクを引き受けていくという手法です。

 本章では、その選択の際の基準として、行政・司法による法令・規制に則った「適法投資」について見ています。(もちろんのこと、グレアムの執筆当時の規制です。)こうした規制は、貯蓄銀行といった金融機関やトラスト・ファンドに適用される規制で、一般投資家の保護を目的としたものです。たとえば、現代での投資信託の規制です。投資信託の運用者は無制限に株式を売り買いで切るわけではなく、全運用額中1銘柄に向けられる比率に上限があるといった塩梅です。

 グレアムは、投資会社や機関に対して有効であるなら、個人投資家もそうした規制のやり方を見るにしくはないといいます。法規制並の厳しい基準を自身の債券投資の選択にも適用すべしというわけです。

 ただ、グレアムは、安全性ガチガチのことをいってはいません。彼は区別の重要性を言ってきました。「インカムゲインを目的とした債券投資は、適法投資の基準から安全性の高い債券に投資し、劣後証券への投資は投機と割り切って購入せよ」というのが彼の投資原則です。

 以降では、当時の法規制による基準(適法投資基準)とはどういうものかを見ていきます。

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法令の例「ニューヨーク州法令」

 本節の冒頭にてグレアムは、「実際の問題として、債券投資家は貯蓄銀行の投資を規制している法令・規制を取り入れることでかなりの満足すべきリターンを得られるだろう」と述べています。

 それは言うまでもなく、厳しい規制をかけることで、「損をしない」投資になるからです。わたしたちは、得てして、利を得ようとして下手な債券をつかんで損をしている、といえます。

 冒頭で「満足すべき」としているのは、満足の行くリターン、としてないのがポイントであります。債券投資の眼目である、安全性を確保して、それに応じたリターンを得るべきであるという、投資の背景を思い出しておくべきなのです。

  本章以下で述べられている法令や規制は、勿論のこと、時と場所の違うわたしたちにとっては、参考に過ぎませんが、預金者の保護を徹底するための法令や規制を見ておくことは、損ではないように思います。

 さて以下、グレアム執筆当時にベストであると判断されたニューヨーク州の投資基準と法令を見ていきます。

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・性質と立地・全面禁止の誤り

 貯蓄銀行の投資を規制する法令の最も際立つところは、一部の広範な部門の債券を完全に除外していることだ、とグレアムは述べます。

 図によると、投資容認は、国債や地方債、公益企業の債券、一番抵当のついた不動産債券となっており、投資除外は、外国政府・企業債、電鉄・水道債、すべての工業債、一部金融会社の債券となっています。

 まあ、上記の分け方は、当時の実情がわからねば、ピンとこないかと思います。現在ではカタイとされている事業が除外されてもいます。当時は、そうだったのでしょう。

 グレアムは、こうした全面禁止には、われわれ個人投資家はそれほどの意を払わなくてもよい、としています。というのも、投資範囲が限定された結果、長年にわたって債券投資家は手痛い打撃を受けてきたためです。

 工業債の中にも、十分な投資適格を誇るものもあります。まあ、この規制は貯蓄銀行一般を規制するものですから、十把一絡げになるのも止むを得ませんが、小回りの効くわれわれは、個別的に見て検証しないといけないわけです。

 ま、図のうち、外国政府・企業債が挙げられているのは、現在においても、アメリカという国を除いては、通用するものかと思います。

 グレアムは、一律に○○債はダメといった全面禁止のルールに従うよりも、個別の銘柄(事業・企業)に絞って考えるべきと述べます。○○はダメという硬直的なルールのために投資家の被る被害も少なくないからです。

 考えるうえでも、「○○だからダメ」というのは、危険であるように思います。逆に、「○○ならよい」という安心感が発生するからです。○○という業種ならすべてよいわけでもなく、やはり、個別的に銘柄なり企業を分析した上で、個人投資家は投資判断をつけるようにと結論付けます。

 そして、法令なり公共団体が定める投資の基準というのは、ちょっぴり曖昧で、ある市なり県が禁止している事業体が、ほかの県ではOKだったり、ガスはダメだが電気ならよいと、よく根拠がわからないケースも多々とのこと。そうなっているからそうしている、そして、これからもそうするといった塩梅のケースも多く、鵜呑みにするのは、利益を生む機会を損ねてしまうと述べています。

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・外国債について

 グレアムは、外国債については、実に慎重な態度を取っています。21世紀となっても、外国債についてはよくよく検討するべきかと思います。なぜなら、グレアムの執筆の1930年代の当時から、外国債は得てしてデフォルトが多く、また、安全な国の外国債を買ったにしても、ある国のデフォルトの余波がその国を襲って、価格低下の影響を受けかねないからです。

 慎重になる理由(ぶっちゃけていえば、買うなといっているのですが)の1つは、外国政府債券というのは担保がない点です。その国家への求償権はあるのでしょうが、それでは何を代わりで弁済を受けるのか、というわけです。ダムや道路が差し押さえられるのかどうか、また、法的にそんなの可能なのか、とうわけです。

 2つめは、責任の所在です。先程もいいましたように、比較的安全といわれ債券でも、ある国のデフォルトが、債券の国のデフォルトの口実になってしまうわけです。「○○の国のせいですから、うちの国の原因ではありません」となって、うやむやになってしまうというわけです。狐につままれた気分ですね。

 3つめは、外国の信用格付けは、基本的に信用ができず、経験上で、満足な利益を得たケースが少ないといっている点です。グレアムは、「極めて少ない」と述べています。

 確かにこの点は頷けるかと思います。現在(2010年)の日本国債の超低金利は、逆に言うと、安全度の指標なのですが(安全だからみんなが買う)、なぜだか、アメリカ等の格付け機関では、評価が低いのです。不思議な現象です。買わせないようにするためかなと穿ったりもします。

 結論としては、外国政府債は、投資対象にすべきではないといえるかと思います。しかし、グレアムは最後に、とはいえども、儲けるチャンスはあるとも言っています。ま、そういうことですね。

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・外国企業債について

 グレアムは、外国企業の債券については、外国債との比較の点から「推奨できない」と述べます。その企業が、どんなに繁栄している企業であっても、です。

 外国債、つまりその政府の債券は、税金によって国内企業から資金を調達し、その資金を持って債券の利払いや元本の支払いに充てる事ができます。しかし、企業は、徴税という手段がないために、債券としては力が弱い、というわけです。

 また、外国企業はどうしても、その「国」の影響を受けざるを得ません。つまり、その外国企業の業績が好調であっても、もし、その外国政府がデフォルトしてしまえば、その影響をどうしても受けてしまう、というわけです。政府のデフォルトによって、出資や投資などの資金移動にも制限が課せられることが考えられます。外国企業債は、外国債に比べ、2重にリスクがあると考えられるわけです。

 加えて、外国企業の地理的遠さも指摘しており、外国政府による独自の規制もあることから、外国企業債についても、確定利付債券としては否定的扱いとなっています。

 しかし、です。1930年当時と現在とを同列に扱うことはできません。資本移動が容易になった現在においては、わたし個人としては、外国企業債は、投資対象の1つになりうると考えます。もちろん、投資先の業績や財務内容如何にかかっていますが、卓越な競争力をもった企業であれば、投資対象に適うように思います。

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・発行体の規模 工業債の要件

 発行体の規模については、時代の変遷もあるので、細かいところは割愛します。当時の地方債の選択にあたって人口25,0000人以上の市や町ならOKで、それ以外は適さないといった基準を見ても意味がないからです。

 また、グレアムは規模の小さい企業への投資は、慎重な投資家には適さないと指摘しています。債券の発行体の規模が小さいと、資金調達や技術の確保において不利であり、また、予想のつかない自体に遭遇した際に脆弱な点を挙げています。

 グレアムは、規模は大事である、と述べていますが、さて、その規模を判断する基準はどうかというと、どれも数学的に意味のある基準ではないし、財務内容等からそうした基準を作るのも簡単ではないと述べています。このため、投資家個人の任意の基準を持って判断していくわけですが、この際には、「その基準が、リスクの大きい債券から自分を守ってくれるという点で、実用的な価値がないと無意味である」と述べます。

 例えば、地方債等の債券の安全性の基準として人口数は、どのくらい使えるか、というわけです。人口が多いと確かに税収もあるでしょうが、負債が多ければどっこいですし 何ともいえないです。人口数ではなく、人口推移であれば、人口が増加傾向であればいい傾向といえますし、減少が続いていたら未来は暗い、と見ることもできるでしょう。任意の基準を用いる際は、しっかりした安全性の論拠を見出すべきです。

 さて、グレアムは工業債についても、指摘しています。当時の工業債は現在で言うITといった最新業界のようなもので、浮き沈みが激しくて、貯蓄銀行が投資する先には不適当の扱いでした。

 しかし、グレアムは、工業債だからと「一括り」で取り扱うのには否定的です。工業債の中には、厳しい安全性の基準をクリアする優良な企業も存在するからです。

 「一括り」の危険性は、規模についての誤解にも言及します。規模が大きいからといってその企業が優良とは限らないからです。資産規模が大きくても、片一方の貸し方の債務がだだ膨れであれば、規模の大きさなど意味を成しません。もちろん、負債が多ければ利息負担も大きいわけですから、利益を大いに減らす要因となります。

 規模が大きいから、という理由だけで、その企業の優位は語れない、とグレアムは釘を刺します。規模の大きさよりも、基本は、好業績です。

 元本の安全を第一に考えながら、リターンをも求める際でも、やはり、投資と名のつくものである以上、事業の性質、企業の個別性、具体性を無視してはならないことを、再度グレアムは述べています。ま、結局は、債券の発行先の財務の健全性と、何より業績です。

 会社の規模(財政の規模)、シェアも重要ではありますが、たとえ業界1位でも低い利益率なら債券としては安定性にかけるのです。シェアを60%確保しているなどの規模なら考えようもありますが、そうであってもやはり、バフェットもいうように「利益、利益、利益」から検討を重ねる方が、賢明であると思いました。

 また、シェアのみの判断も危険でありましょう。シェアが1位であっても占有率が10%台で1位なら、単に名目上の、投資判断に役に立たない1位となるでしょう。あとは、その市場の参加者、市場そのものの規模も問題です。考えることはいっぱいです。

 「〜業界だから」とか「○社だから」という、新聞・雑誌などのメディア、書き込みブログ等々のあまり自分で考えたことのない伝聞情報をもとにする投資の危さを、改めて胸に刻んだ次第です。

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