・確定利付証券の選択

グレアム著「証券分析」の第2部第6章「確定利付証券の選択」についての雑考。

Section− 基本的な特徴
まずは、前章のおさらいからです。

証券というのは、その名称ではなく、その性質によって分類すべしとグレアムは主張しました。

いくら法律上の権利(請求権や残余財産の比例配分)があったとしても、投資において大穴を明けてしまえば、意味が無いからです。

6章では、さまざまな証券の選択の原則と方法について見ていきます。

本書では、確定利付きの証券を次のように分類しています。

@優良な普通社債・優先株

A優良な特権付き証券(特権は投資の対象としない)

B保証または優先事項が付与されているので優良な上位証券にランクされる普通株

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

まずは、優良優先株からです。

優良優先株は優良な債券に含めるとしています。

ただし、優良であるという点に含みをおいています。そう、「優良」である優先株は実に数が少ないためです。

基本的に、債券と優先株は同列に扱ってはいけないとグレアムは注意します。普通の優先株は、優良な債券に較べれば、下のランクの格付けとなっているのが普通です。

一般的に、優先株には配当の継続が確かでないため、投機的のカテゴリに分類するようにグレアムは言います。

「優良」な優先株であることが大事なのであって、名称だけで優先株なら何でもよいという態度には、気をつけるように示唆しています。

−−−−−−−−−−−

グレアムは、債券投資を安全性と同一視するのをやめて、「債券とは、限られたリターンの投資対象である」という観点から見ていけばどうか、と述べています。

債券の保有者は、企業の将来的な利益を得ることはできないが、現在の利益に対する請求権と利息を得る約束を取り付けている、と考えるわけです。

一方の優先株は、利益への優先的な請求権はもらえる約束はしたが、確実に配当はもらう約束はしていない、と考えるわけです。

ま、基本的なことなのですが、証券を買うというのは、単なる「約束」であって、その内容をしっかり自分の言葉で把握することが肝要であるかと思います。

「約束」ですから、破られることもあります。

結局のところ、その約束が履行されるには、その企業の財務状況や営業成績、将来の収益予想によってしかないわけです。

グレアムは、「正しい債券投資の基本は将来の利益のチャンスを放棄する代わりに、明確な形で現在の安全性というものを確保することにある」といっています。

まだ、日本では、優先株というのは個人投資家にとってなじみのあるものではありませんが、この先、販売されることでしょう。

そうした場合にでも、証券の本質からアプローチするように、グレアムは諭しています。名前・名称に引っかからないことですね!

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

・グレアムは死なず

グレアムは、わざわざ一節を設けてこういっています。

「大切なのは損失の回避である」と。

P108以降はじっくり読んだが良いかと思います。それほど、示唆に富んでいます。

昨今の金融の不安定さをまざまざと見せ付けたのは、欺瞞に近い証券の数々が発端となっています。

これまでに、聞いたことのない証券が新たに作られてきました。

RMBS(Residential mortgage-backed security)
・・・住宅ローン債権を証券化したもの。

CMBS(Commercial mortgage-backed security)
・・・商業用不動産に対するローン債権を証券化したもの。

そのほか、PTS、CMO、IOS、POS、SIV、CDS等々。

(各証券の詳しくは、毎度のこと鋭くマネーを切る「宝田豊 新マネー砲談の貧乏ブルース 6」をお読みください。その他の記事も必読です。)

わたしは、この節を読み直してみて、「グレアムは死なず」と思いました。

「債券投資の大きな目的が損失を避けながら、一定のリターンを確保することであれば。。。主に消極的な選択のプロセスとなる。」

「それは、追及や探求というよりかは、除去や消去のプロセスである。」

債券投資は株式投資と違い、最終的にリスクの大きな債券を買わない限り、大きな損失を蒙りません。そして、いくら拒否しても、大きな代償はないとグレアムは説いています。

そして、次の100年前の引用が今でも十分な意味を有していることに驚いてほしく思います。

「もし、証券の選択が難しかったり、その証券が疑わしいと感じた場合にはそれを拒否すべきである」(ワルター・バジョット)

グレアムは、彼の言に「債券の選択に完全に当てはまる」と指摘しています。

欺瞞に近いウンコ債券をしこたま買い込んだ企業や金融機関のうち、いったい何人の人がその債券の仕組みを理解していたのでしょうか。

おそらくは、部分的な理解に止まり、発行先の信用度やら利率の高さ、そして、「これまでのデフォルト件数」で投資判断を下したのではないかと思います。

または、レミングスのように、隣が買っているから我慢できなくなってウンコ債券を買ったのでしょう。

こうした新手の債券の手法は、必ず日本にも持ち込まれてきます。そして、同じようにレミングスが現われるでしょう。

せめてわたしたちだけでも、「賢明なる投資」を続けていきたいと思います。やはり、ダメはダメなのです。

前章・前節のおさらいですが、単に「債券」という名称で投資を行うのではなく、その実質で判断すべしというわけです。

グレアムは死なず!

初心者投資ホームに戻る


Section− 証券選択に於ける4つの原則

グレアムは、確定利付証券の一般的なわけ方として、4つの原則を提唱しています。

その4つの原則とは、、、

T:その証券の安全性は特定の先取り特権その他の契約上の権利にあるのではなく、全ての責務を履行できるその発行会社の財務能力によって決まる。

まず、一つ目の原則から見ていきたいと思います。

難しくはない話です。要するに、債券の安定性は、「その発行会社の財務能力によって決まる」ことを主張しています。

つまり、それ以外のことでは、安定性を確保できないということです。

本書内では、債券の安定の担保として、その企業の保有する資産やその資産への先取り特権(つまり、他の人に優先してその資産を接収できるということ。物への担保ですね)で、安定が決まるというわけはないといっています。

少し考えてみればわかるかと思います。

企業のバランスシートには、仕係品や半製品も、当然の如く資産計上されています。そのほか、土地建物も計上されています。

さて、よく考えてみてください。生産過程にあって未完成の半製品などは、物の担保になるか、お金になるかということです。

たとえば、あなたが漫画家の友人にお金を貸したとして、その借金のかたに未完成の原稿を渡されたとしましょう。当然の如く、「ふざけるな」となりますね。

また、土地建物も今となっては、そう簡単に担保価値を見出すことはできません。都内や市内の土地建物であれば、そっくり市場価値で評価できますが、それが工場であればどうでしょうか。

土地が化学汚染されていれば、資産価値どころか反対にその洗浄で赤が出てもおかしくありません。

建物も同様です。誰が、倒産した企業の工場を喜んで買い受けるでしょうか。おそらく、同業同種の企業でしか、買い手がいないことでしょう。

また、たとえ、証券の担保として設定されていたものであっても、破産管財の元では処分の遅れや不都合もおきやすいといっています。

単に土地持ちだから、工場があるからといっても、それが証券の安定性は担保にならず・リスクの回避にならずと、グレアムは当時からいっているわけです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「証券の担保資産」

グレアムは、発行会社の経営と切り離して証券を見ることを推奨していません。

先ほどいいましたように、企業の担保価値は、その収益力によって決まります。

証券が、いくら会社の資産(本節では鉄道会社や工場の例を挙げています。)に対して、先取特権を設定しているからといっても、ほとんど担保にはならないと述べています。

理由は、も先ほど述べたように、いくらそれら企業の固定資産に対して優先権があったとしても、倒産してしまえばその資産価値は大幅に下落するためです。

グレアムは、「企業の担保資産の取得原価や評価額をその証券の購入基準と考えるのは完全に誤っている」といっています。

デフォルトに際して担保の価値は出て来るのですが、本書では、「そんな簿価など当てにならない」と断言しています。

また、いくら担保権が設定された証券とはいえ、債権者である我々買い手が、それらを差し押さえて換金するのは不可能です。法的な権利は確かにあるのですが、その権利の執行は実に手間がかかって割り高なものになるわけです。

そして、分配の問題があります。グレアムは、もし、その担保物件の価値が予想以上に大きかった場合のことを述べています。担保資産に債権者の額を超える価値があった場合、その超過分はどうなるかというわけです。

グレアムは、「いくら担保資産に優先権があるといっても、債権者がそれを勝手に差し押さえて担保権の実行するのを、裁判所は認めるわけがない」といっています。

その他の利害関係者(株主やその他の債権保持者)によって、担保権の実行には待った!が入るはずです。証券保持者にとって執行できる権利は債権額分のみであり、それ以上の部分には権利が及ばないためです。

おそらくは、裁判所の会議室かで集まって、長々と協議せざるを得なくなるでしょう。そうです、時間と手間の長大な無駄がそこに待っているわけです。

いったい我々は、何を求めて証券を買うのでしょうか。本当に考えなければならないことだと思います。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「待ち時間は高くつくこと、そして、そのまとめ」

これまで見てきたように、グレアムの言わんとするところは、発行先企業の安全性如何が最も大事であることです。

たとえ、発行先企業に価値のありそうな資産が豊富にあるとはいえ、また、債券に資産への先取り特権が付いていたとしても、です。

グレアムは、このように表現しています。「最終的には、第一抵当権者は損失を被らない」と。

そうです、我々は投資したお金は失うことはありませんが、「時間」を失うのです。残余資産が債権者に配分されるのは、うんざりする時間ほど時間がかかります。

その間、ほとんどの投資家はそうしたトラブルに巻き込まれるのを嫌がり、発行された債券の価格は軒並み下落します。そうです、もはや買った債券(社債なりは)換金できなくなるというわけです。

そうして、10年後20年後過ぎたあたりにようやく、債券の投資額相当分のお金が返ってきます。青年は中年に、中年は老人に、老人は土に帰っていることでしょう。

第2第3抵当権者であれば目もあてられませんね。

グレアムはこうまとめています。

「基本原則はトラブルを避けることである」、と。

P112は当たり前のことながら、雄弁に証券投資の真髄を語っています。

「債券購入に際して重要なことはトラブルを避けることである」

「トラブルが起こって我が身を守ることではない」

「先取り特権があったとはいえ、それは証券投資本来の性質とは全くかけ離れた状況下でしか生きてこない」

また、ずばりといいきっています。

「投資家がその証券の信託証書の誓約条項に訴えざるを得ないという事実そのものが、その投資は失敗または賢明ではなかったことを何よりも雄弁に語っている

そして、最後に、(先取り特権や担保付といった条項は)気休め程度にしかならないと締め括っています。

こうしたグレアムの主張を読むにつけて、担保を求める心とは、いったい何を求めてなのかと考察すべきであると考えます。

逆に言えば、何か担保となるものがほしくなる事実こそ、自分が行おうとしている投資が危険であると自ら判断をしているわけです。

初心者投資ホームに戻る


Section− 以上の検討結果から得られる原則

1:先取り特権は重要ではない

債券投資においては、先取り特権はそれほど重要なものではない。ならば、利息の支払いに耐えうる強力な企業の無担保社債でも構わない。

「脆弱な企業の担保付社債よりも安全である」とグレアムは結論付けています。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

2:安全な企業の高利回り債を買う

債券投資においては、何よりも発行企業の確かさを念頭に選択しなければならない。この点、担保付であろうがなかろうが、関係がない。

ならば、企業が発行している種々の債券のうち、担保付で低い利回りの債券よりも、下位の債券で高い利回りの方を選ぶべきである。

「理論的に正しい債券投資とは、まず安全性と財務内容のあらゆる基準を満たす企業を選び、次にその一番抵当つき社債よりも下位にある高利回り債を購入することである」

P115の事例研究は、投資家のよく陥る心理状態と、それが反映した債券投資の事例をわかりやすく述べています。

「投資家は損失に対するほんのわずかな安心料を得るために、1年に5%以上のプレミアムを支払っている。。。賢明な投資家であればカダヒー・ラバーの債券は一切買わないか、または買うのであれば高利回りの下位の債券を購入すべきである」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

3:下位債券に大きなメリットがない場合は上位債券を選択する

下位債券を選ぶときは大きなメリットがある場合である。もし、上位債券とリターンに差がないのであれば、予期せぬ損失を回避するためにも、プレミアム(割増料金)を支払うほうが賢明である。